気になる石橋克彦氏論文(2003年7月7日)

IUGG2003/JSP11「地球物理学的リスクと脆弱性:人口- 災害の相互作用」/2003年7月7日14:30-15:00に講演

 日本の地震への脆弱性を最大にしている最も深刻な文明的社会基盤の要素は、世界で 最も地震の起こりやすい群島の海岸線全域に分布する原子力発電所群である。現在、人 口が密集するちっぽけな列島に、52 基の大型原子炉をもつ 16 の商業用原子力発電所が 稼働している。

 最も危険な原子力発電所は、中部日本の太平洋岸の、迫り来るM8 級東海地震の巨大 な想定断層面の直上に位置する浜岡である。もし、全国的な関心事で特別な法律の対象 でもあるこの地震が発生すれば、地震災害は、東京~名古屋間の広い範囲で確実に壊滅 的になり、公式に推定された全壊建物は 20 万棟以上にのぼって巨大な津波も生ずる。 もし、この地震浜岡原発に重大事故を引き起こして、大量の放射能漏れが生ずれば、 震災地における救助復旧活動は不可能となり、同時に、原発事故の処理と住民の放射能 からの避難も、地震被害のために極度に困難となる。そのために、核事故は最大規模に なるがままに放置され、被曝と通常震災による犠牲者は無数になるだろう。浜岡から 200 キロ近く離れた東京周辺の 2,3 千万人の住民でさえも避難を余儀なくされる。私は、 この地震-核複合災害を「原発震災」と呼ぶが、それは人類がまだ遭遇したことのない、 全く新しいタイプの自然・人為災害である。その最終的な結果は、日本にとって致命的 であるとともに全地球規模のものとなり、未来世代にも深く影響を与える。

 関係当局は、日本の原子力発電所地震対策は完璧であり、すべての発電所と核施設 はいかなる種類の地震に対しても安全だと主張する。しかし、日本の原子力発電所の建 設は 1960 年代初期に始められ、それは、現代地震科学の二つの基礎理論(地震の断層 模型論とプレートテクトニクス)の誕生・普及の前夜であった。したがって、核施設の 耐震設計の公式基準は、現代地震科学からみると古めかしくて不十分である。浜岡だけ ではなくて、日本の他の大部分の原発が、大地震によって事故を生じやすいと思われる。 なぜならば、多くが地震空白域に立地し、そこには明白な活断層があったり、スラブ内 大地震が起こりうる沈潜海洋プレートの真上だったりするからである。これらの科学的 知見は、原発の計画と建設の過程で考慮されていない。

 原発震災を回避するためには、我々はまずこの問題に真っ正面から取り組み、そのリ スクを出来るだけ客観的に評価しなければならない。私は、現代社会のこの深刻な弱点 は、日本に限られるものではなく、全世界的な関心事であるべきだと考える。

【原文は英語/講演者自身による和訳(硬い直訳)】
(注) IUGG=International Union of Geodesy and Geophysics(国際測地学地球物理学連合) 4 年に 1 度の総会が 2003 年 6~7 月に札幌で開催された。