本日の説教の最後に用いた例話

 うすら寒いある早朝、一人の兵士が、兵営に戻る途中でした。ジープで町のとある角を曲がろうとした時のこと、一人の少年がパン屋の窓ガラスに鼻を押し付けているのが見えました。店の中ではパン屋が、次の焼くドーナツの粉を練っています。腹をすかせた少年は、その動きを一つ一つじっと眺めていたのです。この兵士は、角にジープをとめると、降り立って、少年に近づいていきました。蒸気でくもった窓ガラスを透かすと、ほかほかのおいしそうなパンが、オーブンから取り出されるのが見えます。それをパン屋は大事そうにガラスのカウンターに入れました。少年はつばを飲み込んでため息をつきました。わきに立っていた兵士の心は、名も知らないその孤児に吸い寄せられました。

 「君、食べたいのかい」
 少年は目をみはりました。
 「もちろんさ、食べたいに決まってるよ」
 兵士は店に入っていき、一ダースほど袋に入れてもらうと、少年のところに戻りました。そしてにっこりしながら「さあ食べてもいいよ」と紙袋を差し出したのです。
 兵士が立ち去ろうとすると、少年はコートを引っ張って、そっと尋ねました。「あの・・・あなた神さま?」


 この例話はいのちのことば社の「仕える喜び」の中に書かれていた、チャールズ・スウィンドルの説教例話からとったものです。