次の日曜日の子供クリスマス祝会でお話する物語

ヨセフさんいかないで
「涙のち晴れ」(いのちのことば社)というストーリー集に書かれてある物語です。この本が発行された頃、何度もこの物語をしました。でもその頃の子供たちは大きくなりましたので、またしようと思っています。

 
 アメリカのある村に、白い十字架の、小さな教会がありました。日曜日の朝、やわらかな太陽の光のなかに十字架が浮かびあがると、カランコロン、カランコロンと、鐘の音が村中に響きわたるのでした。すると、あっちの家からも、こっちの牧場からも、聖書とさんび歌をかかえた人たちが姿を現わしました。おじいさんもおばあさんも、小さな子どもたちも、あかちゃんまでも、全家族そろって、白い十字架の教会にやってきました。こうして教会はいっぱいになり、村はからっぽになるのでした。ある年の十二月はじめのことでした。クリスマスの日に毎年行なわれる、イエスさまの誕生劇を、その年は子どもたちが担当することになっていました。そこで、教会学校の先生たちは、子どもたちを全員集めて、その劇の相談をしました。そして、役割りを決めたのでした。マリアさんが決まりました。ヨセフさんも決まりました。羊飼いさんたちも、東の博士たちも決まりました。それに、牛さんたち、馬さんたち、羊さんたちも決まりました。天の使いたちも決まりました。こうして、子どもたち全員が、それぞれ自分の役をもらいました。ところが、知恵おくれの子が役からもれていることに気がつきました。先生たちは、すぐに相談をして、その子のために、役をつくりました。それは、馬小屋のある宿屋の子どもの役でした。セリフはーつ、「だめだ。部屋がない」そして、うしろの馬小屋を指さすのです。男の子はよろこびました。「ぼくもイエスさまの劇に出るんだ。ぼくだって、劇に出るんだ」「だめだ。部屋がない」男の子はー日に何十回も、何百回もくりかえして練習をしました。くる日もくる日も練習しました。待ちに待ったクリスマスの日がやってきました。鐘の音が村のすみずみにまで、クリスマス礼拝の時間を知らせました。白い十字架の教会は、たちまちいっぱいになりました。プログラムが進んで、いよいよ子どもたちのクリスマス劇です。そうして、その劇も、最後の場面を迎えました。長旅で疲れ果てたヨセフとマリアが、とぼとぼと歩いて、ベツレヘムにやってきました。陽はとっぷりと暮れています。そして、あの男の子が立っている宿屋にたどりつきました。「すみません。私たちをー晩とめてください」さあ、男の子の番です。おとうさんも、おかあさんも、教会学校の先生たちも、思わず手を組んで、神さまにお祈りをしました。「神さま、うまくできますように・・・」男の子は、大きな声でいいました。「だめだ。部屋がない」それから、うしろをむいて、馬小屋を指さしました。「よかった。じょうずにできた」みんな胸をなでおろした直後のことでした。馬小屋にむかって、肩を落として歩いていくヨセフとマリアをじっと見送っていたその男の子が、突然、ワァッと声をあげて泣き出したではありませんか。男の子は走り出しました。そして、泣きながらマリアさんにしがみつきました。「マリアさん、ヨセフさん。馬小屋に行かないで。馬小屋は、寒いから。イエスさまが風邪を引いちやうから、馬小屋に行かないで、馬小屋に行かないで」教会学校の先生たちが舞台にとびあがりました。そして、マリアさんにしがみついて泣いている男の子を引き離しました。劇は、だいじなところで、しばし中断してしまいました。ところが、長い村の歴史のなかで、これほど感動的なクリスマス劇は、あとにも先きにもありませんでした。